第6回タイガーマスク勉強会「子ども虐待防止のために、いま、私たちにできること」を11/13に東京で開催しました。参加者は全部で52名。社会的養護の関係者だけでなく一般の会社員から学生まで。子育て中のパパママも!今回もぼぼ満席で皆さんの関心の高さを伺わせました。

まず第一部のプレゼンテーションでは、タイガーマスク基金の理事で
オレンジリボン運動でもロックする高祖常子さんが、日本の子ども虐待の現情況を説明してくれてました。(
統計データはこちらにも)

そして2人目のプレゼンテーターは、
NPO法人子どもすこやかサポートネットの代表・田沢茂之さん。
テーマは
「しつけと虐待の関係 虐待はなぜ起こるのか、一線を超える引き金は何か?」 1.子ども虐待を誘発する複合要因について
2.しつけと暴力の違い
3.子どもに対する暴力のない社会を目指して
4.非暴力の子育てがもたらす効果について
5.正しいしつけ(自立のための教育)の重要性
虐待に至る、つまり一線を超えてしまうことを田沢さんは「コップの水が溢れる」という表現を使い、その多様な原因や、コップの水の掻き出し方=予防法(意識の持ちようや周囲からの支援)を海外の事例など交え熱く語ってくれていました。子育て中であろう参加者の皆さんも「ハッとする」ところもあり、自身のやり方を省みながら神妙に聴いている様子が覗えました。
田沢さんのお話の中で僕がいちばん印象深かったのは、「体罰は即効性があるが、使えば使うほど子育てを難しくしてしまう。非合理性に気付いてほしい」というアピール。
確かに虐待や過度な体罰は身体ダメージだけでなく、子どもの精神(豊かな心)を殺す行為だから、子どもの情緒や自己肯定感を喪わせ、子どもの成長・自立を阻んでしまうことになってしまうと思う。
僕も小さい子どもを3人育ててますが、毎日の子育ては大変で面倒なもの。皆さんもそうかもしれませんが、「早くラクになりたい!」と思うときもしばしばで、それを早く獲得するには体罰で子どもをしつけるのではなく、愛情をもって躾けを施し、親も焦らず笑顔でゆっくり育てていけば、自然と時期が来たら子どもは自立して親の手を離れていくと思うのであって、その方が「合理的」で、「理性的な育児」の「望ましいゴール」だと思うのです。

田沢さんには、その後のグループディスカッションでも下記のような質問に答えていただきました。
Q)友人や知人等が「しつけ」として体罰を子どもに与えているのを目の当たりにした場合、どのように接したらよいか分からない。
田澤さん>
「体罰はいけない」「あなたが同じことをされたらどう思うか問いかける」ことが大切。実際に真正面からそれを伝えられるか、また、他の家庭の「しつけのあり方」にどこまで踏み込んでいいかわからない。親自身がストレスフルで、心が満たされない状況にあり、まず、親自身の心を満たすことが必要。
「私だけが」と思っている人が多いので、「イライラ」や「ストレス」共有する場を作ることが大切。共有する場を持つことで「イライラ」や「ストレス」を感じることは誰にでもよくあることだと伝えることが必要。
また「孤育て」を防ぐためにはコミュニティー作りが大切。「頼ってもいい」と感じられる地域づくり。また「思春期」に入るまでの親の関わりがとても大切。子どもも色々な大人と関われる地域づくり。ナナメの関係が必要。

さて今回の勉強会は難しいテーマでもあるので、参加者同士の問題意識や情報の共有&学び合いを計るためにグループディスカッションに時間を取りました。
5つのグループができ、それぞれ熱くトーク。各ファシリテーターから所感レポートが届いたので下記に掲載します。

①このグループでは、虐待の大元の原因になっている「叩く」ことについて話し合われました。
いろいろな状況があっても、やはり「叩かない」で子育てしていこう」という話しになりました。親の「ちゃんと育てなくては」という思い込みが、ストレスになっていくのではないか。そのストレスを軽くしていくことが必要である。そのためには、子育ては母親がするものではなく、「子育ては夫婦でする」ものという認識に、親自身も社会も変えていくべき。「子育て」ではなく「子育ち」と考え、子どもが育っていくことを親としてどうサポートしたらいいのかを、考えていきたい。
また、家に籠もって泣いているママを救いたい。できることをやっていこうという話になりました。「虐待防止」というと、重い、目を向けたくないという心理が働きやすいけれど、子どもとの関わり方も自分事として自分発信でできることを広げていくことが大切であるという意識をたくさんの人が持つことが、虐待で命を落とす子どもが少なくなることにつながると思います。(高祖常子)

②児童養護施設職員、児童養護施設で育った方々、ミュージシャン、広告業界、子育て支援施設関係者を含め様々なフィールドで仕事をしている方々10名で構成されたグループでした。「叩かれて育った経験のある人はどれくらいいらっしゃいますか?」という問に、ほとんどの人が手をあげました。
部活動での信頼関係の中での「叩く」ということを否定はできないという意見があった一方で、「叩かれて育てられたことはない」というパパからは「叩くことは解決には繋がらない。『叩く』という力のではなくて、『威厳』という力でも親の思いは理解できた」という意見も出ました。また、産後うつのママと向き合ったパパからは「それでも絶対に手を出してはいけない、と伝え続けたことで、今の自分の家庭がある」という話がありました。
躾としての「叩く」が文化とまだ残っている日本で、それぞれが「叩く」ことについて考え始める一歩となったグループトークでした。(久留島太郎)

③「体罰を禁止する」という取り組みと「体罰が必要のない子育ての仕方を普及させる」という取り組みは一緒のようだけど、別の伝え方が必要。前者は「○○したらこんなに悪いことがある」という伝え方が合理的だけど、後者は「○○したらこんなにいいことがある」と伝えた方が合理的。
その方が、当事者の親も受け入れやすいし、「辛く大変な子育て」ではなく「楽しい子育て」になると思う。(林田香織)


④このグル―プでは、コップの中の水をいかにこぼすかというところを中心に話をしました。まず、日本の状況として、周囲の人達からの母親に対する要求度が高いこと、母自身もこうでなければならないというイメージにとらわれているのではないかという中で、自身も周りも個性が別々なのだから一つのイメージではなくその人らしい母親像を求めていけばいいのではないかという話になりました。
しかし、現役子育ての方たちからすると、このように客観的にみられるのはある程度子育てが終わっているからであり、現役世代は理解するのはなかなか難しいという意見があった。以前ならば祖父母がその役割を担っていたのではないか。しかし核家族となった今ではその役割を担う人がいない。それを行政がカバーしているが、その情報を得ようとする人は重篤なことにはならず、その情報を得られない人たちが苦しんでいるのだろう。
結論としては、やはりもっと子育てをしている人たちに感心を持つことが大切。身近な者としては夫がいかに自分の問題としてとらえ、コミュニケーションを図るか、たまたま見かけた者としては大変ですよねと共感してあげることがコップの中の水を少しでも減らすことにつながるのではということであった。
このグループはまさに子育てをしている方やある程度子育てが一段落した人等それぞれの立場で話をすることができた。これほどさまざまな分野から人が集まるのはタイガーマスク基金だからであろう。こういうディスカッションはこれからもぜひ続けていきたい。そして、タイガーマスク基金から今子育てに頑張っている人達に「大変だよね。でも一人じゃないよ」ということ、周りの人たちに「もっとみんなで関心を持とうよ」というメッセージを送り続けたい。(恒松 大輔)

⑤
一線をこえる、コップの水があふれる、ことについて器の大きさを変えることは難しく、自分自身のことについて考えるには、まずあふれそうな水を抜くにはどうしたらいいか考えてみよう。コップの水があふれてしまう、ストレスのありかはどこか?どうそのストレスを逃がしていくのか?
一線を越えてしまうことはある。どうにもならない心理状態になってしまうことがある。そういうときには、笑顔に気づかない。笑顔に気づくことは難しい。特に、緊張状態の中で母子密着になり、夫の存在が薄くなる状況が、怖い。夫との話し合いも重要。わかってもらうことが重要。
虐待を繰り返さないためには、「なぜ」虐待をしてしまうのか気付くことが必要。そういう環境におかれていた子でも、成長し気付きがあれば虐待をしない。虐待の一番の元は貧困。貧困と暴力は密接に関係している。まともに生活できない住環境、社会的な孤立などの要因が結びつく。そういう環境をなるだけ作らないようにすることが必要。スウェーデンの例のように、意識が変わると変化する。しつけも、いけないと思うことを言うべきタイミングをみて、地道に話すこと重要。
子どもが生まれたときから夫婦で話し合って、「(こどもには)たたかず、話す。諭す。」と決めていた。言葉がまだわからない幼いうちは心もとないかもしれないが、「言葉でも伝えられる」ということがわかっていると、違う。最近よく聞く、「自己肯定感」だけではなく、自分という存在が受け入れられているかを感じる「被受容感」を持つことが重要。
>参加していた若者に向けての質問・・・どんな家庭だったか?どんな家庭が理想か?
・親はあまり話したりはせず、背中から学べというふたり。今の時代は連帯や協調が求められる時代だから、結婚したらいろいろなことを話す夫婦になりたい。
・父子家庭で、兄と父のけんかがすごかった。兄のストレスが自分に向いて、支配的な態度だったかもしれない。
最後に少しあがっていた疑問・・・
・貧困以外のストレスとは?
・コップの水を抜くためには、話すという方法が出た。たまっている水を、言葉にしてコップの外に出すにはどうしたらいいか?(大城戸 忍・学生)

最後に参加者の皆さんからのアンケート(感想)も掲載します。
●子どもたちをめぐる厳しい状況に心を痛めておりました。人権関連のアクションに参加している者ですが、今日は貴重な学びの時を与えていただきまして誠にありがとうございました。全体のプログラムもとても充実していたと思います。
●虐待防止のために何ができるのか考えながら参加していましたが、「虐待の実態を知ること」「目をそむけず自分のこととして捉え考えること」「自分の行動・考えを発信すること」が今すぐにできることだと感じました。
●“ナナメの関係”もひとつだと感じましたが、「たくさんの目で見ること」「広い世界を知ってもらうこと」をどうしたらできるのか、自分が働きかけられるところから考えたいと感じました。
●自分自身で思い出したのは、決して叩かなかった父母に育てられたこと、それでも父母の考えは言葉や行動で伝えてくれたこと。それが「手を上げない」子どもとの向き合い方に大きく影響しているだろうこと。また、幼い頃、犬がいた生活のおかげで、共通の言葉を持たない者同士のコミュニケーションが自然とできたこと、そして身近な死も、どんなことなのか当事者として感じ考えられたこと。それらに感謝しています。
●でも子どもにイライラすることはあり、キツイ口調や詰め寄ることがあります。その時に、妻から「いい加減にしたら?」と冷静に言われ、フォローされ助けられています。逆パターンもあり、こうした父母のバランス、補える関係があることで、いい加減で子どもと関われるのかもしれないと感じ、父母のバランスのよい子育て、家事への関わりの重要性を再度確認しました。
●いつもこのような機会を作っていただきありがとうございます。児童養護施設の子どもたち(卒園する子)に向けた何か活動があるとよいと思っています。何か予定があれば教えてください。
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社会的養護の「上流で起きている川上問題」でもある「子ども虐待」をテーマにした勉強会は今後も切り口を変えながら継続していく予定ですので、また幅広い層の皆さんの参加をお待ちしてます。
また東京に限らず、全国でも開催したいので事業を協働されたい方(行政やNPO、学校等)はタイガーマスク基金事務局( nfo@taigermask-fund.jp )までご連絡ください


「みんなで、STOP ! CHILD ABUSE」