
2年前にも呼ばれた日独シンポジウム(atベルリン日独センター)に発表者として参加して来ました。
今年のテーマは「家庭と職業の両立を図る――今の政治の課題」。
ワークライフバランスを基底に、日本では立ち遅れている、いわゆる「時間政策」や「男女の雇用均等」「ダイバーシティ」(単身家族等の多様性への理解と包摂)について、みんなで考えるというシンポです。
僕は1日目の第3セッションで「父親と祖父、父子家庭、学生への支援」というテーマでFathering Japanの取組をプレゼン、多くの共感を得たように思えます。

しかし僕としてはせっかくなのでドイツの社会的養護についてもちょっと調べようと思って、本シンポのコーディネーターでもあり、家族法を専門とする筑波大学の本澤巳代子教授(写真)、シンポで先生の「家庭内における暴力・虐待に対する日本の立法と対策の特徴――科研費研究「11ヶ国比較研究」の結果報告」という興味深いプレゼンを聴いたあとに質問しました。
聴くところによるとドイツは社会的に困っている子どもへの支援意識が政府だけでなく、市民の意識も高く、養護施設もあるが「養子縁組」(里親)も進んでいるとのこと。そういえば熊本の病院で始まった「赤ちゃんポスト」はドイツが先行事例。「赤ちゃんポスト」に預けられた子どもについては、少年局等の公的機関及び民間の認可事業者による養子縁組斡旋によって、可能な限り養子縁組が成立するような体制が整えられているようです。
翻って日本では「赤ちゃんポスト」や乳児院で保護された子どもが、里親や養子縁組に至るシステムが十分に整っているという話は聞いたことがないけど、どうなんだろうか。
そもそもは「赤ちゃんポスト」が使われなくても済むようにすることが大事だと思うが、ドイツは現在では、「赤ちゃんポスト」は「望まない妊娠をして困難な状況にある母親」に対する最終手段として位置付けられており、加えてカウンセリングや母子支援施設の充実等、困難な状況に陥っている母親への支援策を充実させる方向らしい。
日本でも、母親等に対する妊娠・出産に関する相談体制の充実はもちろんのこと、望まない妊娠をさせ
ないという意味で、主に若年層への性教育や緊急避妊法による避妊教育等を行っていくことも大事だと思う。
またドイツはそもそも子どもを含め国民全体に寄附文化の土壌が強く、さまざまな基金が有効的に機能しているとも聞いた。根っこにキリスト教があるからだろう。幼稚園でも園児が家で使わなくなったおもちゃを持ち寄り、施設や途上国に贈る(送る)習慣が普通にあるのだとか。やはり小さい頃からのこうした教育や習慣が大事だよなあ。
一概に日本とは比べられないが、ドイツにも少子化や、出産育児期における新生児遺棄や家庭内暴力や虐待ももちろんあるそうで、それを乗り越えるためにさまざまな施策を打ち出している。
2006年にはドイツ家族省(連邦家族高齢者青少年女性省)が主導となって、これまでの手厚い児童手当の支給を中心とする育児支援から、家庭と職業の両立支援を中心とする包括的な家族政策への転換が示されている。新しい家族政策は、再配分政策(有子家庭の経済的負担への支援)、インフラ政策(保育制度等の整備)、時間政策(両親が子どもとともに過ごす時間の確保)の3つの柱を軸とするものであり、地域や企業における子育て支援への取組みがそれを補強している。
家族形態の多様化や家族機能の変化に対応して、政府の強力な主導のもと、性別役割分業に基づく家族観からの脱却が図られようとしている(『ドイツの新しい家族政策』)。
こうした「総合的な家族政策」が末端で起きている虐待や家族間暴力などの問題を予防する大きな装置になっているのだろう。日本も場当たり的な対応ばかりでなく、こうしたトータルでロングテールな政策の立案・施行が求められるはずで、タイガーではそこを追求してみたい。


さてシンポジウムが終わって翌日、帰国のフライトまで時間があったので、西ベルリンの町にある「多世代の家」(写真上)を視察訪問した。
これもドイツの家族政策の一環、★包括的な家族支援:「多世代の家」と「家族のための地域同盟」の実績。
移民問題を抱えるドイツは「家族に優しい社会」の構築を目ざして地域における世代を超えた包括的な子育て支援のモデル事業を推進してきている。そうした中で、地域における取り組みとして代表的な事業が、「多世代の家」と「家族のための地域同盟」なのだ。
この地域の90%を占めるトルコ系の移民やクルド人などがドイツ社会に定着するため、生活を安全なものにする社会的援助の拠点として州政府が作った施設。市民間の交流や市民活動のエンパワーメントが目的。提供するサービスは、日本と同様な保育(託児)から親子支援の各種プログラムがありますが、高齢者やホームレスのデイケアもというダイバーシティ施策だ。
括目すべきは、子育て支援やボランティアセンターの役割を担いながら父親と地域の子ども、高齢者と幼児など家族や世代を超えて交流できるコミュニティとなっている点。つまり日本でもあるコレクティブハウスのようなものをポジティブな移民政策・家族政策のモデルとして運営をしているのだ。
今後、シングル世帯が増え、人口が減り高齢化していく日本にとっても示唆を感じた。 FJやタイガーマスク基金の活動の参考にもしたいと思っています!

シンポ登壇者の先生たちと、多世代の家で。
このネットワークを大事にして今後もドイツはじめ、他国の社会的養護や家族政策について学んでいきます。
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