2012年09月07日

タイガーマスクも「悪役」だった~児童虐待事件増加に思う

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今年上半期(1〜6月)の児童虐待の摘発件数が過去最多の248件(警察庁発表)との報道があった。
http://mainichi.jp/select/news/20120906k0000e040151000c.html?inb=tw

12人の児童が死亡(0歳児は5名)。摘発の約7割(175件)は身体的虐待、次いで性的虐待68件、ネグレクト(育児放棄)5件。

また昨今は親からの暴言や、子どもの前で配偶者間で暴力をふるったりする心理的虐待は、上半期だけで昨年同期比約6割(1374件)増の3634件確認され、児童相談所に通告されたそうだ。でもこれは氷山の一角だろう。子育て支援の仕事で全国を回っていると、そう実感する。

新生タイガーマスク基金の事業は、社会的養護が必要な子ども・若者への自立支援が主だが、一方で目的(ミッション)に掲げているのが、「子ども虐待の根絶」。

「なんとかしなくては!」と改めて思う。

個人的には、もはや「啓発」「厳罰化」「通報の義務化」だけでは難しいのではと考える。無論、水際問題としてそれも必要だが、もっと川上(かわかみ)で洪水を防ぐこと、具体的には、親になる予定の人(プレパパ・プレママ)への理性的な子育てを指導、あるいは学生期などもっと早い段階での家族形成力を教育していくなどが川上の予防対策として有効だと思う。

また現に虐げられる子どもの背後には経済的に困っていたり、孤立化して精神的に追い詰められている親が必ずいる。そんな彼らをただ責めたり、「親の自覚・責任を持て!」「母親なんだからがんばれ!」などと上から言っても、既に弱っている人には届かないと思う。虐待寸前の人に必要な支援はほかにあるはずだ。

ではどうすればいいか?

おそらく日本社会全体に余裕がなく、人々がストレスフルで暴力的な行為が増えていることが主原因だと思うが、だとしたらもう一歩、意識を進めて、「児童虐待は社会の病理」と捉え、一人一人が「ソーシャルインクルージョン」の意識と行動を取ることだと私は思う。

ソーシャルインクルージョンは、「全ての人々を孤独や孤立、排除や摩擦から援護し、健康で文化的な生活の実現につなげるよう、社会の構成員として包み支え合う」という理念で、イギリスやフランスでも、ソーシャルインクルージョンが一つの政策目標になっている。

日本語では「社会的包摂(ほうせつ)」。簡単に言えば貧困や生活困難に陥っている人を孤立・排除するのではなく、社会で包み込んで護ってあげるということ。それが児童虐待の予防にも有効だと私は考える。

例えば、それぞれのフィールド(地域や職場)などで支援のネットワークを創り、困っている大人(親)をその支援の輪(コミュニティ)に入れ、気づき・共感・繋がり・喜び・自己肯定感の獲得…そんな場を提供していくということだ。(長年やってきたファザーリング・ジャパンの父親支援事業は、夫婦関係クライシスや父親による虐待・DVの予防に繋がっていると自負している)。

しかし生活困難といっても背景や事情はそれぞれ複雑。虐待の形態も乳幼児への虐待だけでなく、中高生への教育虐待などもあり多様だ。

なので、それぞれの親の立場に立った支援、それぞれの課題に沿ったキメ細かい​指導やカウンセリング等の支援が必要。そして頑なに閉ざされた親の心の扉をノックする有効な情報伝達手段を確立することが肝心だ。

その方向性で僕らには何ができるか?

貧困からの脱却は経済の回復が特効薬だが、不確定でまだ時間がかかるだろう。震災以降、被災者の家庭危機の度も高まっている。だから政治や行政任せではいけない。市民一人一人がソーシャルインクルージョンな意識をしっかり持って、一人一人が自らタイガーマスクとなって、寄付行為だけでなく包摂的な行動を起こしてほしいと願う。

タイガーマスク基金は、そんな有志の皆さんが活躍できる場や機会を提供できる「プラットホーム」でありたいし、そのための事業をいま準備中。また虐待のニュースが珍しくなくなり、人々が慣れてスルー​しがちな情況もなんとかしたいと思っており、近々、児童虐待をテーマ一般向けに勉強会を企画しています。

そう、タイガーマスクもかつては「悪役プロレスラー」でした。

でも「ちびっこハウス」の子どもたちと接するうちに「大事なこと」に気付き、身についた悪役スタイルと正統派でありたい意識の中で長く葛藤しながらも人間的な成長を遂げ、反則技を使わないレスラーに変身。子どもたちやファンや社会に受け入れられるようになったのだ。

児童虐待を根絶する必殺技はまだ分からないが、活動を続けることによって、困っている人、困ったことに陥りそうな親がもう一度笑顔になれるチャンスがある社会を構築したい。

タイガーマスク基金で働く僕らも、社会の一員として、フェアプレーで正々堂々、この問題に向き合っていきたいと思っていますexclamation

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(C)梶原一騎・辻なおき/講談社・東映アニメーション





ラベル:児童虐待
posted by ando-papa at 07:08| Comment(1) | TrackBack(0) | TMミッション | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
タイガーマスクも悪役だったんですね?
あまり覚えてないので新鮮な気持ちです。

まだ安藤さんのように広い心で捉えることはできませんし、専門的な事はあまりわかりませんが関心を持つことを始めました。

自分自身の生活ばかりを見て、困窮者を見て見ぬ振り。
いじめの対象者と同じような気持ちで関わると災いが自分にも降りかかるような気がして…。

自分の時も誰も助けてくれなかったじゃないか!自分は関わる必要はない!国や社会が悪い!誰かがしてくれるだろう。
そんなことばかり考え目を背けていた気がします。

私は、タイガーマスク基金さんのおかげで関心を持つことをし始めました。
他のみんなにも、たくさんの人に関心を持ってもらいたい、そう思います。

私もタイガーマスクになれるかな (^^)
Posted by 清水孝弘 at 2012年09月07日 12:20
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